バズニュースランキング 2016 〜262万記事の大量解析から見るPRの効果測定(前編)〜
ネットメディアすべてをデータベースに
昨春来、私たちのチームは「digital media wiki」というプロジェクトを立ち上げ、日本のネットメディアすべてを社内データベースへ登録する野心的な作業に従事している。登録されたメディアは、データベースに内蔵した複数のプログラムによって、推定サイト訪問数や月間の記事本数、ソーシャルメディアからの流入数がリアルタイムで観測できるように設計され、クラウドに設置してある。
チームの推計では、日本には2000ほど、プロフェッショナルもしくはプロに準ずる人間が運営するネットメディアがある。代表的なものには、朝日新聞デジタルや産経ニュースを筆頭にした新聞・テレビ・経済雑誌のニュースサイト、エンタメ系のoricon newsやナタリー、ITmediaやASCII.jpといったIT系、Spotlightやgrapeのバイラルメディア、NaverまとめやLINE NEWS、Gunosyなどのキュレーションメディアやキュレーションアプリ、もちろんYAHOO!Japanニュースやlivedoor NEWSなどのメガポータルが含まれる。
このデータベースは、定量的根拠に基づく広報プラン作成とリスト作業の効率化を担うが、この他にも実験的な目的がある。国内のネットメディア空間を総合的に把握し、データドリブンな新たな効果指標を開発すること、およびデジタルPR上でのコンサル商品を開発すること、の2つだ。
ここでは、私たちのプロジェクトから生まれた新しい成果を少しだけ紹介したい。
※ なお、紹介するデータは私たちの独自計測で、数字の完全性を保証するものではない。事前にご了解願いたい。
「バズ」のついた記事を測定する
私たちのプログラムと複数の外部APIを組み合わせて使うと、任意の期間中の、任意のサイトの、すべての記事についたソーシャルメディア上のアクション(Facebookのいいね!やシェア、Twitterのツイート数やリツイート数、Google+の+ボタンなど。以下総称して「バズ」とする)数を、記事タイトルと共に取得できる。
私たちはこの仕組みを使い、2016年1月1日から2016年12月31日までの日本のネットメディア上位800媒体すべてのバズのついた記事を取得した(上位800媒体はデータベースでの独自ランキングから判定したもので、集計日は2016年12月31日)。取得記事数は262万1904。もはやビッグデータと呼ぶにふさわしい量だ。
この262万記事の頂点に立つ、2016年年間バズ10の記事を紹介してみよう。
| 順位 |
配信日 |
メディア名 |
タイトル |
バズ数 |
| 1 |
2016/4/14 |
Yahoo! Japan |
【Yahoo!基金】熊本地震災害緊急支援募金 – Yahoo!ネット募金 |
28万 |
| 2 |
2016/7/1 |
BuzzFeed Japan |
【クイズ】昭和の死語、どれだけわかるかな? |
16.6万 |
| 3 |
2016/2/6 |
Yahoo! Japan |
台湾南部地震緊急支援募金(Yahoo!基金) – Yahoo!ネット募金 |
16万 |
| 4 |
2016/2/5 |
Spotlight |
なぜ報道されないの? 震災時に個人で10億円支援を即決した張栄発さんが死去 |
12万 |
| 5 |
2016/1/6 |
grape |
我慢のスキルが異常に高い 甘え下手な長女の主張【15選】 |
11.8万 |
| 6 |
2016/4/15 |
grape |
熊本地震 寄付・ボランティア受付窓口まとめ シェアだけでも支援できる |
11.2万 |
| 7 |
2016/3/29 |
Spotlight |
独身の頃のように好きなだけヒールが履けるようになったら…私は泣くのでしょう |
9.9万 |
| 8 |
2016/12/14 |
CuRAZY |
【大人になっても安心は禁物!!】2016年「あなたの成績通知表診断」 |
9.6万 |
| 9 |
2016/11/17 |
てみた(temita) |
『BLEACH』の作者・久保帯人さんからの切実な願いの拡散をサポートしたい |
8.8万 |
| 10 |
2016/10/12 |
BuzzFeed Japan |
あなたが「関東人」か「関西人」かを見極める10の質問 |
8.5万 |
特徴的なのは、2016年にネットで最も「バズった」記事ランキングにもかかわらず、誰もが知っている一般的な話題の少なさだ。
2016年は舛添・小池都知事の交代、築地移転、オバマの広島訪問、大隅教授のノーベル生理学・医学賞受賞、新元素ニホニウム、SMAP動向、ポケモンGO発売、リオ五輪、「シン・ゴジラ」「君の名は。」、広島カープの優勝、逃げ恥/恋ダンス、といった話題があり、ナショナルサイズの話題が特に貧困だったわけでもない。
そもそも地震関連(これだって報道というより募金窓口の話だ)を除けば、報道・ニュースそのものがランクインしていない。ソーシャルメディアへの拡散しやすさを読者導線として専門的に設計しているといわれるバイラルメディアの独壇場だ。
バイラルメディアの上位バズ記事を見ると、もともとTwitter上で自然にバズが広がっている話題を、記事としてあらためて取り上げたと考えられるもの(4位、6位、7位、8位)、あるいは使いやすさ/意外性が練られた診断・クイズ・アンケート系の記事(2位、8位、10位)が大半だ。
こうしたメディアや記事のありようは、一見、企業広報に関連のないものと見てしまいがちだ。しかし、このランキングは現在のネットおよび社会を素直に反映しており、極大量の人を動かしているのは、これらのメディアであるのは事実だ。特に消費者に近い商品広報や製品PRに関わる広報パーソンは、こうした種類のメディアへの取り上げられ方を真剣に検討すべき時期にきている。
なお、先に触れたナショナルサイズの話題が、ネット上にないわけではもちろんなく、どの話題についても3000位(1.5万バズ)くらいまでにはランクインしている。
バズを起こしたメディア2016
次の表は、2016年の1年間に1000以上のバズ記事を出したメディアTOP20だ。ここでは総合報道も目立ち、バイラルメディアは独壇場というほど強くはない。
ポータル分野では、ヤフーとライブドアが圧倒的で、ほかのポータルとは確たる差が出てきたといえそうだ。ヤフーは計算上、1年365日、1日も欠かさず、30記事にも及ぶ1000バズ以上の記事を配信している点で、バズの面でも「国民的ポータル」の地位を盤石にしている。
メディアグループとしては朝日新聞デジタル本体のほかに、ハフィントンポスト、nikkansports.comをTOP20に送り込む(このほかにwithnewsも大きなバズ力を持っている)朝日新聞グループのデジタルでの強さが見て取れる。もしPR時にリソースが限られていて、新聞社系を絞って狙わなければならないのなら、朝日新聞系列に重点を置くべきだろう。
朝日新聞デジタルの昨年最もバズった記事のひとつに、「駅の電光掲示板に『喜多方ラーメン』 会津若松で誤表示」(2016年6月18日)というものがある。ついたバズは4万1689。少しクスッとするようなネタも積極的に取り上げる姿勢がある。そうした媒体特性を知ってアプローチを変えれば、大きなバズを得ることができる。
| 順位 |
メディア |
1,000バズ以上の記事数 |
| 1 |
Yahoo! Japan |
12,753 |
| 2 |
livedoor NEWS |
5,963 |
| 3 |
朝日新聞デジタル/Asahi.com |
5,382 |
| 4 |
grape |
4,327 |
| 5 |
産経新聞(産経ニュース) |
3,785 |
| 6 |
NHK News Web |
3,832 |
| 7 |
Spotlight(スポットライト) |
3,142 |
| 8 |
The Huffington Post(ハフィントンポスト) |
3,082 |
| 9 |
ナタリー |
2,857 |
| 10 |
東洋経済オンライン |
2,119 |
| 11 |
peco(ペコ) |
1,892 |
| 12 |
CuRAZY |
1,782 |
| 13 |
日本経済新聞電子版(nikkei.com) |
1,424 |
| 14 |
NAVERまとめ |
1,353 |
| 15 |
日刊ゲンダイ DIGITAL |
1,225 |
| 16 |
nikkansports.com(日刊スポーツ) |
1,194 |
| 17 |
FASHION PRESS(ファッションプレス) |
1,167 |
| 18 |
LITERA(リテラ) |
1,159 |
| 19 |
毎日新聞(Web) |
1,153 |
| 20 |
GIGAZINE(ギガジン) |
1,102 |
経済方面では、鋭角なタイトルワークと突っ込んだ取材力に定評を持つ東洋経済オンラインが、日経電子版さえ抜いて数多くのバズを獲得しているようだ。また、そのほかの特徴としては、エンタメと女性系メディアが少ないともいえる。
データがなく過去と比較することはできないが、紙・電波などを持たない完全にネット専業のメディアが12件(1位、2位、4位、7位、8位、9位、11位、12位、14位、17位、18位、20位)あり、旧来のマスメディアとは完全に生態系を異にするという印象だ。むろん、企業広報や商品PRに関連して話題を取り上げるメディアも多く、大いに参考になるだろう。
(後編に続く)
出典:経済広報